沖縄の野生ランについて

亜熱帯地域に位置し、東洋のガラパゴスともいわれる琉球列島。そこに生育するラン科植物の種類は約120種類と言われています。国内に産する数の大部分が生育するランの宝庫であるといえます。

しかし現在ではその存在が脅かされていることをご存じでしょうか。2006年に沖縄県が発刊した「改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物」では実に104種類のラン科植物が絶滅の可能性があると警告されています。減少の原因としては森林伐採、ダム建設、道路工事による開発行為と園芸用としての採取行為が主なものとして挙げられます。

その中でも園芸用としての株の採取行為はこれまであまり規制が強化されておらず、「山からランを採る」行為に対しても、罪悪感を感じる人も少なかったのではないでしょうか。

しかし、今、現実問題としてラン科植物のほとんどが絶滅の危機に瀕しています。そのことを皆さんに少しでも感じて欲しいと思います。「私一人が楽しめればいい」という個人的な欲のために、ある地域から一つの種類のランを採取した場合、ひょっとしたら二度と自然界ではその種類のランを見ることができなくなってしまうかもしれません。自然を守るのも壊すのも人間しかできない行為です。いつまでも琉球列島の自然が豊かでいられるように、私たち一人一人が自然を守ることを考える時期にきているのではないでしょうか。

ラン科植物/採取から採種へ

ラン科植物の採取を控えるよう前項で記述しましたが、自然を愛しながらランも楽しみたいという場合、一つの解決策として種子で増やす方法をお勧めします。ラン科植物は普通の植物とは異なり普通に種を蒔いても発芽しません。種に発芽させるための栄養が含まれてないのです。では、自然界ではどうして発芽できるのでしょうか?

その原因は「ラン菌」と呼ばれる微生物がカギとなります。ラン菌と種子が出会うとラン菌は発芽に必要な栄養を種子に与えるのです。ラン菌と種子が出会うのはほとんど偶然に近いような確率であるため、ランの種子は一果実あたり数千から数百万単位で入っていますが、その中で発芽できるのは数個程度なのです。

しかし、人間が手を加えることによって発芽の確率をうんと高くする方法があります。それがフラスコを使った「無菌播種(むきんはしゅ)」なのです。

無菌播種(むきんはしゅ)

「無菌播種(むきんはしゅ)」とは簡単にいえば三角フラスコに栄養を含ませた寒天を流し込み、その中に種子を蒔くのです。この作業を無菌状態で行うことで種子は確実に栄養を吸収することができ、高い確率で発芽するのです。

一つの例として自然界からランの株を採取したとしましょう。もし、その株をうまく育てきれずに枯らしてしまった場合は再び同じ場所で同じ植物を手に入れる事はできません。いわば取り返しがつかないのです。

その点、種子の場合だと1個の果実からでも多数の苗が一度に手に入ります。多少成株になるまで時間はかかりますが、確実に株を手に入れることができるのです。苗から成株への過程をみるのもまた楽しいものではありませんか?

私共、熱帯・亜熱帯都市緑化植物園では年に2回程、「ランの無菌培養研修」を行っております。毎週日曜日に3時間ほどの講習を2ヶ月間続けてランの種まきについて伝授するものです。興味のある方はぜひ一度、お試し下さい。

設備がなくても、自宅にある器材で無菌播種ができる方法もお教えします。

さて、次のコーナーからは琉球列島に生育する野生ランの紹介をしていきます。これまで私たちが観察してきたランについて、開花、結実、フラスコへの無菌播種の様子等をご紹介します。

琉球列島の野生ランを愛する人々が採取から採種へ転換するきっかけとなるように、情報は随時更新していきますのでご参考下さい。

琉球列島に産する野生ラン

エダウチヤガラ Eulophia graminea

生育:地生
カテゴリ:環境省:該当なし
     沖縄県:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
生育環境:日当たりの良い草地や原野に生える。
減少の要因:もともと自生地と個体数が少ない。園芸用の採集。自生地の開発。遷移の進行。
開花期:4月
採種期:6月(交配後約40日で完熟)
備考:人工交配は容易。成功率も高い。


完熟した果実と種子
果実のサイズ
縦 径:22.8mm
横 径: 9.1mm
重 さ: 0.63g

フラスコに播種した状況
播種日: 02.6.7撮影日: 02.7.1
Eulophia 属は比較的フラスコ内の生育が遅い。 (以前に同属のイモネヤガラを播種した場合ではフラスコ内で3年かかって順化した記録がある)

沖縄本島北部
海岸に群生していたエダウチヤガラが護岸工事で埋め立てられた現場


エンレイショウキラン Acanthephippium pictum

生育:地生
カテゴリー:環境省:絶滅危惧ⅠA類(CR)
      沖縄県:絶滅危惧ⅠB類(EN)
減少の要因:もともと自生地と個体数が少ない。園芸用の採集。自然林の伐採。
生育環境:日当たりの良い草地や原野に生える。
開花期:6月
採種期:-月(未確認)


エンレイショウキランの花を横からみたところ

花弁解体時の様子。ここで注意してみて頂きたいのは唇弁がちょうつがいのように折れ曲がる事。

唇弁は昆虫が花の蜜を吸うための「止まり木」的な役割があります。昆虫が唇弁に降りると同時にちょうつがいが曲がって昆虫が花の中央部にずり落ちます。
あわててはいずりだした時に花粉が昆虫の体に付着するのです。


タイワンショウキラン Acanthephippium sylhetense

生育:地生
カテゴリー:環境省:絶滅危惧ⅠA類(CR)
       沖縄県:絶滅危惧ⅠB類(EN)
生育環境:山林の自然林の林床に生える。沖縄島では石灰岩地に限られる。
減少の要因:もともと自生地と個体数が少ない。園芸用の採集。自然林の伐採。
開花期:4-5月
採種期:-月(未確認)


タイワンショウキランの花を横からみたところ

花弁解体時の様子


オキナワセッコク Dendrobium okinawense

生育:着生
カテゴリー:環境省:絶滅危惧ⅠB類(EN)
       沖縄県:絶滅危惧ⅠA類(CR)
生育環境:山地の自然林の樹幹に着生する。
減少の要因:園芸用の採集。自然林の伐採。ダム建設による水没。
開花期:6月
採種期:8月(予定/未確認)
備考:沖縄島の固有種。セッコクと同種とする意見があるがセッコクと比べて植物体と花が大形で、唇弁の形が異なる。

オキナワセッコクの果実

オキナワセッコクの種子をフラスコ内に播種した状況。 播種日: 01.10.19 撮影日: 02.03.01 葉の展開・根の伸長が確認されている。高い確率で発芽しているのが分かる。

オキナワセッコクの苗がフラスコ内で生育している状況。 撮影日:02.07.01


この段階でフラスコから取り出して順化が可能。
播種から順化までわずか9ヶ月足らず。1個のさく果から数百の苗が育てられる。


ナゴラン Sedirea japonica

生育:着生
カテゴリー:環境省:絶滅危惧ⅠB類(EN)
      沖縄県:絶滅危惧ⅠA類(CR)
生育環境:自然林の樹枝に着生する。
減少の要因:園芸用の採集。自然林の伐採。もともと自生地と個体数が限られている。
開花期:5月
採種期:8月
備考:絶滅寸前の種である。沖縄の地名がつけられた貴重な植物だけに現状が残念。残された株の保護が望まれる。

ナゴランの果実

ナゴランの種子をフラスコ内に播種した状況。
播種日:00.08.28
撮影日: 02.07.26


ヒメトケンラン Tainia laxiflora

生育:地生
カテゴリー:環境省:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
      沖縄県:絶滅危惧ⅠB類(EN)
生育環境:自然林や二次林の明るい湿った林床に生える。
減少の要因:園芸用の採集。自然林の伐採。
開花期:4月
採種期:5月
備考:分布域の南限である。以前の記録では播種日98.4.6、順化日01.5.6の記録がある。(フラスコ内で約3年管理)

ヒメトケンランの果実
果実のサイズ縦径:2.48mm
横径:1.72mm
重さ:0.10g

ヒメトケンランの種子をフラスコ内に播種した状況
播種日:98. 4. 6
撮影日:02. 7.27


フウランNeofinetia falcata

生育:着生
カテゴリー:環境省:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
       沖縄県:絶滅危惧ⅠA類(CR)
生育環境:低地の樹幹や岩上に生え、しばしば群生する。
減少の要因:園芸用の採集。自生地の開発。もともと自生地と個体数が少ない。
開花期:6月
採種期:
備考:絶滅寸前である。


フウランの種子をフラスコ内に播種した状況。
播種日:98.10.9
撮影日:02.7.26
順化可能である。


植物園だより