はじめに
環境庁版「レッドデーターリスト」(平成19年8月3日発表)によると、国内の絶滅または絶滅危惧の維管束植物は、1,731種類(絶滅種33種、野生絶滅 8種、絶滅のおそれのある種 1,690種)となっています。
沖縄県においては平成18年に公表された「改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物」で、琉球列島に生育する維管束植物で絶滅あるいは絶滅の恐れのある植物は846種類(絶滅種10種、野生絶滅種3種、絶滅危惧Ⅰ類394種、絶滅危惧Ⅱ類233種、準絶滅危惧種82種、情報不足124種)が挙げられています。
このような状況の中、当植物園では絶滅の恐れのある野生植物の保護、育成及び生育調査を進めています。その一つには、今後、開発が予定されている地域に自生する希少植物の保全を目的とした「沖縄の希少植物に関する調査」があります。また、沖縄に生育する野生ラン等を対象とした増殖技術の確立とそれらの保護、育成等も行っています。
| 区分 | 基本概念 |
| 絶滅 EX(Extinct) | すでに絶滅したと考えられる種 |
| 野生絶滅EW(Extinct in the Wild) | 飼育・栽培下でのみ存続している種 |
| 絶滅危惧Ⅰ類CR+EN | 絶滅の危機に瀕している種 |
| 絶滅危惧ⅠA類 CR(Critically Endangered) | ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの。 |
| 絶滅危惧ⅠB類 EN(Endangered) | ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの。 |
| 絶滅危惧Ⅱ類 VU(Vulnerable) | 絶滅の危機が増大している種。 現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧Ⅰ類」のランクに移行することが考えられるもの。 |
| 準絶滅危惧 NT(Near Threatened) | 存続基盤が脆弱な種 現時点での絶滅危険度は小さいが、生育・生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの。 |
| 情報不足 DD(Data Deficient) | 評価するだけの情報が不足している種 |
| 絶滅のおそれのある地域個体群LP(Threatened Local Population) | 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれの高いもの |
沖縄の希少植物に関する調査の概要
ダム建設が進行している河川域で保護が必要となる希少植物について、平成3年度から自生地の調査(微気象、周辺植生、ライフサイクル、繁殖特性、増殖方法等)及び保護、育成を行っています。
また、保護及び増殖した植物はダム建設によって水没する予定地域外の管理された区域に遺伝子保存を目的に移植するため、移植方法等の調査も平行して実施しています。尚、本調査は下記に示してある希少植物を中心に実施しております。








この他、コバノミヤマノボタン(ノボタン科)、アカハダコバンノキ(トウダイグサ科)等、ダム建設に伴って保護が必要となる種類の保護・育成も併せて実施しています。
自生地の概要
ソノハラトンボ、ナガバハグマ、コケタンポポ、アオヤギソウ、ヤナギニガナの自生地(渓流域)の温度は、夏期と冬期の差は若干見られるが変化は少なく年間平均14℃~20℃と大きな変動がない穏やかな環境だといえます。
湿度は年間を通して平均80%以上と高い値を示していました。照度はアオヤギソウ、コケタンポポが直射日光をうける場所に生育することから一時的に高い値を示すことがありましたが平均して6,000Lux以下で、その他の種類の自生地では3,500Lux以下と低い値を示していました。
周辺植生では、種類に多様性がなく、群度、被度とも小さいものでした。また他の植物との競合を嫌うかのように水面近くで生育しており増水等の影響を受けやすい環境にあるといえます。
繁殖特性
繁殖特性ではライフサイクルや受粉形態、散布方式等の調査を行いました。
オリヅルスミレは閉鎖花で自家受粉して種子形成し、散布形態は自発散布であること、また、発芽は15℃以上の明条件下で高い発芽率を示しています。
ナガバハグマは自家受粉、風散布、20℃~30℃の範囲で明、暗条件に関わらず高い発芽率を示しました。
アオヤギソウは他家受粉、風散布で15℃~30℃の広い範囲で明、暗条件に関わらず高い発芽率を示しました。
ソノハラトンボは他家受粉、風散布ですが、栽培環境下では人工交配をおこなっています。
ヤナギニガナは自家受粉、風散布、明条件下で高い発芽率を示しました。
コケタンポポは自家受粉、自発散布、明条件下で発芽することがわかりました。
増殖方法

各器官(根、茎、葉)を用いた増殖及び種子繁殖について調査を行っています。各植物とも種子による方法が有効で、器官(茎)ではアオヤギソウが挿し木で繁殖するこがわかりました。また、ラン科植物のソノハラトンボは無菌播種による増殖方法を確立しました。
移植試験
ナガバハグマ、ヤナギニガナ、アオヤギソウ、ソノハラトンボの4種類について、河川域での移植試験を実施しています。
河川では増水等によって直接移植した植物が流失し、定着する確率が非常に低くなっています。そこで河川域での流失を防ぐため人工基盤を用いた移植試験を行っています。人工基盤はポーラスコンクリートが、主に構成されてい ます。
移植試験は、今後の人工渓流を想定して実施されています。現在、人工基盤の温室内での植栽試験では生育個体は85~100%に達しており、今後は、河川域で生育状況を調査する予定です。
沖縄の野生ランの保護・育成について
沖縄県に生育する野生ランは琉球植物目録(初島、天野、沖縄生物学会 1994)では116種が記載されており、そのうち沖縄県が公表した「レッドデータおきなわ」では104種が絶滅の恐れのある野生生物に挙げられています。沖縄県に生育するほぼすべてのラン類が絶滅の危機にあるといえます。
当公園では、現在、アオジクキヌラン(Zeuxine affinis) 、イモネヤガラ(Eulophia zollingeri) 、トサカメオトラン(Geodorum densiflorum) 、ツルラン(Calanthe triplicata) などの50種以上の育成、管理を行っています。育成、管理において、渓流域に生育するソノハラトンボ、リュウキュウサギソウ(Habenaria polytricha)等は、温度調整ができる空調温室が必要です。
野生ランの増殖は主に培地等への無菌播種によって行っています。これ迄、オキナワセッコク(Dendrobium okinawense) 、 ナゴラン(Sedirea japonica) 、フウラン(Neofinetia falcata) 、イリオモテラン(Trichoglottis luchuensis) 等、数十点の増殖に適した培地組成が調べられています。 また、適正な培地組成等が未確定のラン類についても随時、試験等を行っているところです。